2020.03.04

口内の健康のカギを握る唾液の力②

○唾液の到達量は部位で異なり虫歯のなりやすさにも影響

 唾液にはクリアランス作用もあり、飲食してから約2分で唾液中の糖濃度は半分になり、約30分でクリアランスは完了します。しかし、部位によって唾液の到達量が異なるため、その効力は大きく異なります。唾液の到達量は上顎より下顎、頬側より舌側のほうが多く、部位でいうと下顎前歯部舌側が最も多く、上顎前歯部唇側が最もすくないことがわかっています。つまり、上の前歯は唾液クリアランスが弱く、虫歯になりやすいことを意味しています。
 また、pHでみると口腔内のpHは常に6~7の中性で維持されています。これは唾液にpHを一定に保とうとする緩衝能があるからです。清涼飲料水やスイーツなどの飲食物を摂取すると口腔内の状態は酸性に傾きます。pHが5いかになると歯の脱灰(リン酸カルシウムの溶液)が進んで虫歯になりやすくなるため、口腔内の状態を中性に戻す唾液の働きはとても重要です。このpH緩衝作用も唾液の到達量に影響されます。
  pH3のオレンジジュースを飲むと、口腔内のpHは3近くまで下がりますが、下の前歯の舌側では瞬時(2~3秒後)に元の7近くまで戻ります。一方、唇や舌を動かさずにじっと安静を保っていると、上の前歯の唇側や奥歯の頬側では30分経過しても元のpHには回復しません。下の前歯舌側の緩衝能が高いのは、この部位の近くに顎下腺の開口部があることが関係していると考えられます。また、上顎には唾液が自然には到達しないことを示しており、虫歯を予防するうえで歯磨きなどの口腔ケアがより一層大切となります。実際は、飲食中は口唇やしたが常に動いているので、それによって唾液も動くことから、上顎前歯部や臼歯部も、酸により即座にダメージを受けるわけではありません。
  唾液の働きで口腔内が酸性から中性、アルカリ性になると、唾液中の溶解度が下がるための唾液に溶出していたリン酸カルシウムが歯に戻ります。これを再石灰化といいます。再石灰化するまで歯は弱い状態なので、食後30分以上たってから歯磨きをしたほうがよいとの意見もありました。しかし、再石灰化は数秒という短時間で起きるため、歯の脱灰はほとんど食後すぐに歯磨きをしても全く問題ありません。
出展:医歯協MATE No.317